― 泣くことが「話す力・食べる力」を育てる理由 ―
赤ちゃんの泣き声は、周囲の大人にとっては強い刺激になります。
大きな声で泣けば泣くほど、
「早く泣き止ませたほうがいいのではないか」
「このまま泣かせていて大丈夫なのだろうか」
そんな判断を迫られる場面も少なくありません。
けれど、赤ちゃんにとっての泣きは、単なる感情表出ではありません。
それは、身体機能・感覚・情動を同時に育てる行為であり、
その後の発達の基盤に深く関わっています。

泣き声は最初の「ボイストレーニング」
赤ちゃんがことばを話すためには、
声帯だけでなく、呼吸・口腔・顔面の筋群が協調して働く必要があります。
泣くという行為は、その協調運動を最初に経験する機会です。
つまり、泣き声は最初の「ボイストレーニング」と言えます。
泣くとき、赤ちゃんの体では次のような反応が同時に起こります。
・横隔膜を使った強い呼気
・口の最大開口
・咽頭腔(のどの奥の空間)の拡張
・舌、唇、下顎、頬筋の協調運動
これらは、発声・構音・共鳴に必要な基本的条件です。
泣くことは、単なる声出しではなく、
全身運動としての呼吸訓練であり、
音声生成に必要な身体感覚を育てています。
食べる・話す・泣くは同一の身体システム上にある
泣くこと、話すこと、食べることは、
別々の能力のように見えますが、
実際には同じ身体システムを共有しています。
・口を開ける
・舌を動かす
・息を吐く
・喉を通して音や食塊を通過させる
これらの動きは、泣くときにも、話すときにも、食べるときにも使われます。
そのため、
泣く → 声が出る → ことばになる → 食べる動きにつながる
という流れは、発達の過程として自然な連続性をもっています。
泣く経験が乏しい場合、
口の可動域、舌の使い方、呼吸と動きの同期が十分に育ちにくいこともあります。
泣きの二つの機能:コミュニケーションとストレス解放
赤ちゃんの泣きには、明確に
泣きの二つの機能:コミュニケーションとストレス解放
があります。

1.コミュニケーションとしての泣き
空腹、不快、疲労、接触欲求などを伝えるための泣きです。
この泣きは、応答されることで
「発信すれば応答が返る」という対人関係の基礎を形づくります。
2.ストレス解放としての泣き
刺激や緊張が高まった状態から、
心身を調整するための泣きです。
この泣きは、途中で遮断されるよりも、
十分に表出されることで調整が進む場合があります。
すべての泣きを止めることが、
必ずしも赤ちゃんにとって最善とは限りません。
泣かせてもらえる親子関係が支える発達
赤ちゃんにとって重要なのは、
泣かないことではなく、
泣かせてもらえる親子関係の中にいることです。

泣いたときに、
・声を出しても大丈夫
・気持ちを外に出しても受け止めてもらえる
という体験が繰り返されることで、
情動の調整だけでなく、
身体的な緊張と弛緩のリズムも育っていきます。
その際に大きな意味をもつのが、
抱っこして泣かせるという関わりです。
一人で泣かせるのではなく、
身体的な支持のある状態で泣くことは、
呼吸・姿勢・安心感を同時に支えます。
おしゃぶりの功罪 ― 泣く機会を奪っていないか

おしゃぶりには、
安心感を与える、入眠を助けるといった利点があります。
それ自体が否定されるものではありません。
しかし、注意したいのは、
泣くたびに即座に口腔をふさぐ形で使われる場合です。
その状態が続くと、
・十分な開口の経験
・舌や唇の自由な運動
・声を出して試す機会
が制限される可能性があります。
問題は使用の有無ではなく、
泣く経験をどう位置づけているかです。
おしゃぶりは「泣きをなくす道具」ではなく、
状況に応じて補助的に用いられるものとして考える必要があります。
大きな声で泣けない場合に考えたい視点
声が小さい、泣きが弱い、口の動きが少ないといった様子が続く場合、
環境的要因だけでなく、身体的条件が関係していることもあります。
・呼吸音に違和感がある
・泣くこと自体を避ける傾向がある
・飲む際にむせやすい
こうした点が重なる場合には、
安心して声を出せる体験の積み重ねが、
発達を支える要因になることがあります。
体に何らかの不調が出ている場合もありますので
その際は小児科や耳鼻科等の医療機関を受診してくださいね。
まとめ:泣き声は、生きる力を育てる活動
赤ちゃんの泣き声は、
単なる反応でも、困った音でもありません。
それは、
呼吸を育て、
声を育て、
口の動きを育て、
情動を調整するための、
極めて重要な活動です。
止めることよりも、
抱っこして泣かせる。
その関わりが、
結果的に「話す力」「食べる力」へと
つながっていきます。
赤ちゃんが大きな声で泣けているかどうか。
その問いは、発達の土台を見つめ直すための、
大切な視点です。

