
ダウン症のあるお子さんを持つ保護者の方から、「毎年しもやけ(凍瘡)に悩まされている」「なかなか治らない」というお声をよく聞きます。
これは単に「皮膚が弱いから」という理由だけではありません。
ダウン症のお子さん特有の「体の仕組み」や「感じ方」が重なり合って、冷えや炎症が起きやすくなっているのです。
この記事では、なぜしもやけになりやすいのか、その6つの理由を医学的根拠に基づいて解説し、ご家庭で今日からできる具体的な対策を分かりやすくご紹介します。
第1部:なぜ、しもやけになりやすいの?
そもそも「しもやけ」とは、寒さで血管が縮まった後、温まって血管が広がるときに、血流がスムーズに戻らず炎症が起きる状態です。
ダウン症のお子さんには、このリスクを高めるいくつかの特徴があります。
1. 血液を届ける力が弱い(循環の問題)
体の隅々まで温かい血液を届けるには、ポンプ役の心臓と、パイプ役の血管の働きが重要です。
心臓の特性による影響
ダウン症のお子さんの約半数は、生まれつき心臓に何らかの特徴(心疾患)を持っています。
手術で治っていても、体の末端(手先・足先)まで血液を送る力は、他のお子さんに比べてわずかに弱いことがあります。
血管の縮こまり(アクロチアノーゼ)
手足が青紫色になるのをよく見かけませんか?
これは「アクロチアノーゼ」と呼ばれ、血管が過剰にギュッと縮こまってしまう現象です。
ダウン症のお子さんでは、この末梢循環の不良がより顕著に見られることが研究でわかっています。
寒さに反応して血管が閉じすぎてしまうため、手足が冷えやすく、血液不足(酸素不足)になりやすい状態です。
2. 血液を戻すポンプが弱い(筋肉の問題)
血液は心臓から送り出されるだけでなく、筋肉の力で心臓へ「戻す」必要があります。
特に足の血液は、歩くときのふくらはぎの筋肉がポンプの役割をして重力に逆らって押し上げます。
筋肉の柔らかさ(低緊張)の影響
ダウン症のお子さんの大きな特徴である「筋肉の低緊張(ハイポトニア)」は、このポンプ作用を弱めてしまいます。
血流の渋滞(うっ滞)
筋肉のポンプが弱いと、足先に行った血液がなかなか戻ってこれず、古い血液がたまってしまいます。
これが、しもやけ特有の「腫れ」や「治りにくさ」の原因となります。
3. 体温調節が苦手(自律神経の問題)
私たちの体は、暑いときは汗をかき、寒いときは震えて熱を作るなど、自動的に体温を調節しています(自律神経)。
ダウン症のお子さんは、この自動調整機能が少し不安定なことがあります。
基礎体温が低め
もともとの体温が一般的なお子さんよりも少し低い傾向があり、寒さの影響をより早く、強く受けてしまいます。
手足の汗っかき
手足に汗をかきやすいお子さんもいます。靴下の中で汗をかくと、その水分が蒸発する際に急激に体温を奪い(気化熱)、しもやけを悪化させてしまうのです。
4. 皮膚そのものが乾燥しやすい(肌の問題)
ダウン症のお子さんの皮膚は、乾燥しやすく(ドライスキン)、バリア機能が低下しやすい傾向があります。
研究でも、乾燥肌はダウン症の方に最も多い皮膚の状態の一つとして報告されています。
乾燥して荒れた皮膚は、寒さの刺激が直接入り込みやすく、小さなひび割れから炎症が広がりやすくなります。
また、傷を治すのに必要な「亜鉛(あえん)」というミネラルが体内で不足しやすいことも研究で知られており、一度しもやけになると治るのに時間がかかる一因となります。
5.「寒い」「痛い」に気づきにくい(感覚の問題)
「しもやけになるまで冷やさない」ことが予防の第一歩ですが、この感覚の問題が意外と大きな原因となります。
感覚の反応の遅さ
痛みや冷たさを感じるセンサーは持っていますが、それを脳がキャッチして「寒いから手袋をしよう」と行動に移すまでに時間がかかることがあります。研究では、痛みの表現は遅れて現れるものの、一度痛みが認識されると、むしろ増幅された反応が見られることがわかっています。
伝える難しさ
まだ言葉での表現が難しい場合、「痛い」と言えずに我慢してしまったり、不機嫌になるだけで原因がわからなかったりすることがあります。
6. 免疫の調節がうまくいかない(炎症の体質)
最近の研究で、ダウン症のお子さんは免疫システムの調節機能に特徴があることがわかってきました。
感染症への防御力は弱い一方で、しもやけのような小さな炎症に対しては過剰に反応してしまうことがあります。
そのため、「真っ赤に腫れ上がる」「なかなか引かない」という強い症状につながることがあるのです。
これは免疫が「活発すぎる」のではなく、「調節がうまくいかない」状態と考えると理解しやすいでしょう。
第2部:お家でできるケアと対策
原因がわかれば、対策が見えてきます。
ご家庭でのケアのポイントは、「血流を助ける」「肌を守る」「感覚を補う」の3つです。
1. 急激な温度変化を避ける(「ぬるま湯」が鉄則)
冷え切った手足を、熱いお湯やストーブで急に温めるのは絶対にNGです。急激に血管が開くと、かゆみや痛みが爆発し、炎症が悪化します。
【対策】
37〜38℃くらいの「ぬるま湯」につけるか、大人の手で包み込んで、ゆっくりじんわり温めてあげてください。

2.「濡れ」は最大の敵
手袋や靴下が雪や雨、または汗で濡れると、猛烈なスピードで体温が奪われます。
【対策】
替えの靴下を常に持ち歩き、少しでも濡れたらすぐに交換しましょう。遊びに夢中になる前に、手袋や靴下の中が汗で湿っていないか、こまめに確認してあげてください。
3. 感覚過敏に配慮した防寒具選び
「手袋をしてくれない」「帽子を脱いでしまう」のは、わがままではなく、チクチクする感覚や締め付けが不快な「感覚過敏」かもしれません。
【素材選び】
ウールなどのチクチクする素材は避け、内側が綿(コットン)やフリース素材のものを選びましょう。
【形状】
5本指手袋が難しければミトンタイプを。縫い目(シーム)がない靴下や、タグのない下着(シームレス)を選ぶと嫌がらないことが多いです。
4. 保湿と血行促進で肌を守る
乾燥はしもやけの大敵です。毎日の保湿ケアで、皮膚のバリアを作ってあげましょう。
ヒルドイド(ヘパリン類似物質)がおすすめ
保湿剤の中でも、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)は保湿効果に加えて血行促進効果もあるため、しもやけ対策にぴったりです。
お風呂上がりの肌がしっとりしているうちに、手足の先までしっかり塗ってあげてください。皮膚科で処方してもらえるほか、市販のヘパリン類似物質配合クリームも活用できます。
オイルを使ったマッサージ
ベビーオイルや植物オイルを使ったマッサージもおすすめです。保湿しながら血行を促進でき、親子のスキンシップにもなります。
強くこすらず、オイルをなじませながら手のひらで優しく包み込むように温めてあげましょう。手足の指の1本1本を、根元から指先に向かってくるくると撫でるだけでも効果があります。
5. 血流を助ける「ぐーぱー体操」
第1部でお伝えした「筋肉のポンプ機能」を助けるために、手足の指を動かす体操を取り入れましょう。
お子さんと一緒にできる「ぐーぱー体操」
手足の指をぐー(ギュッと握る)→ ぱー(大きく広げる)と繰り返すだけの簡単な体操です。
「ぐー!」「ぱー!」と声をかけながら、遊び感覚で一緒にやってみてください。
指を動かすことで末端の血流が促され、冷えの予防につながります。朝起きたときやお風呂上がりなど、1日に何回か取り入れると効果的です。

赤ちゃんの場合
まだ自分で指を動かせない赤ちゃんには、足の裏のふちを指でなぞってあげると、反射で足の指がぐーぱーと開きます。
かかとから小指側をくるっとなぞると指が「ぱー」と開き、足の裏の指の付け根を押すと「ぐー」と縮まります。これを繰り返すことで、赤ちゃんの足先の血流を促してあげられます。
オイルマッサージと組み合わせると、より効果的です。
足のグーパータッチの動画はこちらから

6. 栄養で内側から守る
皮膚を強くするために、亜鉛を含む食材(お肉、魚、海藻、ナッツ類など)を意識して取り入れてみてください。
食事だけで不足する場合は、医師に相談してサプリメントを検討するのも一つの手です。
7. 遊びの中でのこまめなチェック
お子さん自身が「冷たい」と言わなくても、大人がこまめに手足を触ってチェックしてあげてください。
「楽しくて夢中になっているとき」こそ、体の冷えサインを見逃しやすいタイミングです。
寒さに気づきにくい分、大人が「感覚を補う役割」を担ってあげましょう。
まとめ
ダウン症のお子さんのしもやけは、「血液循環」「筋肉」「神経」「免疫」といった全身の特徴が複雑に組み合わさって起きています。
「この子の体は冷えを感じにくいんだな」「ポンプ機能を手伝ってあげよう」と理解して、親御さんが予防とケアをサポートしてあげることが大切です。
日頃のケアで予防しながら、もし赤黒く変色したり、潰瘍(傷)ができたりして痛みが強い場合は、皮膚科や小児科で早めに相談してください。
漢方薬や血流を良くする塗り薬で楽になることもあります。

※この記事の内容は医学研究に基づいていますが、お子さんの状態に合わせた具体的な対応については、かかりつけ医にご相談ください。


