「朝起きられない」から考える、起きている時間の育ち

先日の睡眠講座で、参加された方からこんな質問がありました。

「睡眠不足で朝なかなか起きられない状態が続くと、発達にはどんな影響がありますか?」

睡眠と発達というと、

脳の発達への影響。
成長ホルモン。
記憶や学習。

そんなことを思い浮かべる方も多いと思います。

もちろん、睡眠は脳や身体の働きと深く関わっています。

でも私はこの質問を聞いたとき、もう少し日常の子どもの姿に近いところから考えてみたいと思いました。

朝、眠くてなかなか起きられない。

なんとか起きて、朝ごはんを食べ、着替えて保育園へ行く。

でも、まだぼんやりしている。
なんとなく機嫌が悪い。
先生に声をかけられても動きたくない。
お友だちが遊んでいても、その中に入りたくない。

もし、そんな一日が続いていたら。

睡眠と発達のつながりは、こういうところにも見えてくるのではないでしょうか。

睡眠は「寝ている間」だけの問題ではありません

睡眠は、単に身体を休ませる時間ではありません。

眠っている間には、記憶や学習に関わる情報の整理、感情の調整、身体のさまざまな機能の調整などが行われています。

また、子どもの睡眠不足や睡眠の問題は、注意、行動、感情の調整、認知などと関連することが報告されています。

ただし、

「睡眠時間が短いから発達が遅れる」

と単純に考えることはできません。

睡眠と発達の関係はもっと複雑ですし、子どもによる個人差もあります。

では、睡眠不足は子どもの毎日にどう現れるのでしょう。

私はその一つを、起きている時間の過ごし方に見ることができると思っています。

発達は、毎日の何気ない経験の中で育っていきます

保育園で過ごす一日を思い浮かべてみてください。

園庭を走る。

砂に触る。

虫を見つけてしゃがみ込む。

「見て」と先生を呼ぶ。

お友だちと同じおもちゃを使おうとして、うまくいかなくて怒る。

少し離れて、また一緒に遊び始める。

給食を食べる。

歌を歌う。

先生の話を聞く。

こうした一つひとつが、子どもにとっては大切な経験です。

発達は、特別な練習だけで進んでいくものではありません。

身体を動かすこと。

見たり、聞いたり、触れたりすること。

人とかかわること。

うまくいかないことを経験すること。

またやってみようとすること。

そんな日常の積み重ねの中で育っていきます。

眠れていないと、その経験に参加しにくいことがあります

大人でも、寝不足の日はありますよね。

集中しにくい。
ちょっとしたことでイライラする。
人と話すのが面倒になる。
いつもなら楽しめることに、あまり気持ちが向かない。

子どもにも、似たような姿が見られることがあります。

眠れていないことで、

ぼーっとしている。

機嫌が悪い。

すぐ怒る。

ちょっとしたことで泣いてしまう。

遊びに向かう元気がない。

そんなふうに日中の姿として現れることがあります。

もちろん、その姿だけを見て「睡眠不足」と決めつけることはできません。

体調かもしれないし、環境の変化があったのかもしれない。

発達段階や気質、人との関係も影響します。

でも、そんなとき、

「どうして今日はこんなに機嫌が悪いんだろう」

だけではなく、

「この子、ちゃんと休めているかな」

という視点が一つあってもいいと思うのです。

睡眠は、発達の「機会」にもつながっている

よく眠れた朝。

目が覚める。

身体を動かしたくなる。

面白そうなものを見つける。

近づいてみる。

お友だちを見つける。

声をかける。

一緒に遊ぶ。

うまくいかなくて怒る。

先生に助けてもらう。

またやってみる。

その全部が、育つ経験です。

だから私は、睡眠について考えるとき、

「寝ている時間に脳の中で何が起きているか」

だけでなく、

「起きている時間に、その子がどんな経験をできているか」

も一緒に見たいと思っています。

睡眠不足によって、いつも機嫌が悪い。

遊びに向かいにくい。

人とかかわる元気がない。

そうした状態が長く続けば、その子が本来できたかもしれない遊びや人とのやりとり、さまざまな経験に参加しにくくなることは考えられます。

つまり睡眠は、

寝ている時間だけで発達を支えているのではなく、起きている時間に、その子が世界とかかわっていくことも支えている。

そんなふうに考えることもできるのではないでしょうか。

何時間眠ればいいのでしょう

子どもの睡眠時間には個人差がありますが、米国睡眠医学会(AASM)では、24時間あたりの睡眠時間の目安として、

  • 生後4〜12か月:12〜16時間
  • 1〜2歳:11〜14時間
  • 3〜5歳:10〜13時間
  • 6〜12歳:9〜12時間

を推奨しています。

乳幼児では昼寝も含めた時間です。

ただ、数字だけを見て、

「あと30分足りない」
「基準に入っていない」

と心配しすぎる必要はありません。

睡眠時間と一緒に見たいのは、起きているときのその子の姿です。

朝、なかなか起きられない日が続いていないか。

日中ぼんやりしていないか。

遊びに向かう元気があるか。

夕方になると極端に崩れていないか。

その子なりに一日を楽しめているか。

時計の数字と、目の前の子どもの姿。

両方を見ていくことが大切です。

朝起きられない=必ず睡眠不足、ではありません

朝起きにくいからといって、すべてが「寝る時間が遅い」「睡眠時間が足りない」からとは限りません。

生活リズムや体調、その子自身の睡眠の特徴など、いろいろなことが関係します。

また、十分な睡眠時間をとっているはずなのに強い眠気が続く、いびきが強い、眠っている間に呼吸が止まるように見える、夜中に何度も目を覚ますなどがある場合には、睡眠の質に問題が隠れていることもあります。

気になる状態が続くときには、小児科などで相談してみてもよいでしょう。

睡眠時間だけでなく「その子の一日」を見てみる

睡眠について考えると、

「何時に寝かせればいい?」
「何時間眠ればいい?」

という話になりがちです。

もちろん、それも大切です。

でも、その先にいる子どもの一日も見てみたいと思います。

朝、どんな顔で起きてきたかな。

今日は何に興味を持ったかな。

たくさん身体を動かしたかな。

お友だちと笑っていたかな。

何かに夢中になっていたかな。

眠ることと、起きて世界とかかわること。

この二つは別々ではありません。

よく眠ることは、次の日にもう一度、世界へ向かっていくための準備でもあります。

「睡眠は発達に大切です」と伝えるとき、私は脳や身体の話だけではなく、そんな子どもの一日も一緒に見ていきたいと思っています。