赤ちゃんが安心して眠る方法を考える
「おっぱいじゃないと寝ないんです」
「抱っこで寝かせているけれど、このままでいいですか?」
「自分で眠れるようにした方がいいのでしょうか?」
赤ちゃんの睡眠についてお話をしていると、こんな質問をよくいただきます。
最近は、
「眠る前に布団へ置きましょう」
「自分で眠れるようにした方がいい」
という情報を目にすることもあります。
でも、小さい赤ちゃんが抱っこや授乳の途中で眠ってしまうのは、よくあることです。
では、抱っこで寝かせるのはよくないのでしょうか。
そもそも、
「自分で眠る」って、どういうことなのでしょう。
赤ちゃんが眠る方法は、本当にいろいろ
以前、Instagramで
「赤ちゃんが眠るとき、どんな工夫をしていますか?」
と聞いてみたことがあります。
すると、
毎晩同じ絵本を読む。
部屋を暗くする。
抱っこやおんぶ。
授乳しながら。
親の指を触りながら。
布団の上でしばらくゴロゴロして、そのうち眠る。
本当にいろいろな答えが届きました。
一方で、小さい頃からそれほど寝かしつけをしなくても眠れる赤ちゃんもいました。
人の身体。
声。
匂い。
揺れ。
触れられること。
いつもの場所や、いつもの流れ。
赤ちゃんは、それぞれ違うものを手がかりにしながら眠っているようです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、大人のようには眠らない
私たち大人は、夜になると眠り、朝になると起きる生活リズムを持っています。
でも、生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ昼と夜のリズムが十分に整っていません。
眠ったり起きたりを繰り返しながら、少しずつ1日のリズムが育っていきます。
朝の光。
昼間の人とのやりとり。
授乳。
身体を動かすこと。
そして夜になると、だんだん暗く静かになっていくこと。
そんな毎日の暮らしの中で、赤ちゃんの睡眠も少しずつ変わっていきます。
その変化にはかなり個人差があります。
ですから、
「〇か月なのに一人で寝られない」
ということだけで、睡眠の発達を判断することはできません。
抱っこやおっぱいで眠るのは「困ったくせ」?
私は、抱っこや授乳で眠ることを、それだけで「困ったくせ」と考える必要はないと思っています。
小さい赤ちゃんは、いつでも一人だけで自分の身体を落ち着かせているわけではありません。
抱かれる。
触れられる。
声を聞く。
身体を支えてもらう。
授乳する。
そんな大人との関わりを借りながら、少しずつ身体を落ち着かせていきます。
眠ることも、その一つです。
だから、
「また抱っこで寝かせてしまった」
「おっぱいじゃないと寝ない」
と、それだけで心配しなくてもいいと思っています。
大人だって、一人の力だけで毎日を過ごしているわけではありませんよね。
赤ちゃんも、夜中に少し目を覚ましている
「うちの子は朝まで寝ます」
という赤ちゃんでも、一晩中まったく目を覚ましていないとは限りません。
乳児を夜間ビデオで観察した研究では、月齢が上がっても、赤ちゃんは夜中に何度か覚醒していました。
変わっていくのは、目を覚ましたあとです。
月齢が上がるにつれて、親に助けてもらわなくても再び眠る赤ちゃんが増えていくことが報告されています。
つまり、
「よく眠れるようになる」
というのは、
一度も目を覚まさなくなることだけではなく、目覚めてもまた眠りへ戻れるようになること
でもあります。
「目が開いているうちに布団へ置く」と言われるのはなぜ?
ここでよく出てくるのが、
「眠ってしまう前に布団へ置きましょう」
という考え方です。
1992年の研究では、生後3か月頃に、起きた状態で寝床に入り、そのまま眠りについた赤ちゃんの方が、夜中に目覚めたあとも自分で再び眠る傾向がみられました。
一方で、すでに眠ってから寝床へ移されていた赤ちゃんは、夜間覚醒のあとに親の助けを受けることが多くみられました。
ここから、
寝入りのときと、夜中に目を覚ましたときの状況が似ていることが、再入眠のしやすさと関係するのではないか
と考えられています。
たとえば、
抱っこされて、揺らされながら眠った。
でも途中で目を覚ましたら、
抱っこされていない。
揺れていない。
寝床の上にいる。
赤ちゃんによっては、
「あれ?」
となって、もう一度いつもの寝入り方を必要とすることがあるのかもしれません。
「寝てから置く」と「起きているうちに置く」は、どちらが正しい?
ここは、少し混乱しやすいところです。
「しっかり寝てから布団へ置きましょう」
という話もあれば、
「まだ目が開いているうちに置きましょう」
という話もあります。
実は、目的が少し違います。
今、抱っこで眠った赤ちゃんを起こさず置きたいとき
2022年に発表された理化学研究所などの研究では、泣いている赤ちゃんを
『5分間抱っこして歩き、眠ったらそのまま5〜8分間座って抱っこをキープしてから』寝床へ移すと、起きにくい傾向が報告されています。
これは、
今眠っている赤ちゃんを、なるべく起こさず寝床へ移したい
という場面の話です。
一方、
寝入り方そのものを少しずつ変えていきたい
という場合には、眠る前から寝床にいる経験を増やすことも選択肢になります。
どちらかが正解なのではなく、目的が違うのです。
「自分で眠る」を、もう少し広く考えてみる
「自分で眠れるようになる」と聞くと、
抱っこなし。
授乳なし。
一人で布団に入り、そのまま眠る。
そんな姿を思い浮かべることがあります。
でも私は、もう少し広く考えてもいいのではないかと思っています。
最初は、おっぱいを飲みながら眠っていた赤ちゃんが、
おっぱいのあと、抱っこでも眠れるようになる。
そのうち、
抱っことトントンでも眠れる。
寝床で手を添えてもらえば眠れる。
声を聞きながら眠れる。
そして、ある日は布団の上でゴロゴロしているうちに眠る。
そんなふうに、
「これでも安心して眠れた」という方法が少しずつ増えていく。
それも、眠る力が育っていく姿ではないのかなあとも思います。
今の寝かしつけで困っていないなら
抱っこで眠る。
おっぱいを飲みながら眠る。
でも、
赤ちゃんはそれなりに眠れている。
親御さんもそれほどつらくない。
家族の生活にも大きな負担がない。
そんなときまで、
「この寝かしつけを直さなくちゃ」
と思う必要はないのではないでしょうか。
方法そのものより、
今、その方法で親子が困っているかどうか
を見てみたいと思います。
困っているなら「やめる」より「増やす」
反対に、
寝かしつけに毎晩1時間以上かかる。
夜中に何度も目を覚ます。
そのたびに長い抱っこや授乳が必要になる。
親御さんの睡眠不足が続いている。
夜間の授乳と、日中の授乳や離乳食とのバランスも気になっている。
そんなときには、寝入り方を少し見直してみてもいいかもしれません。
ただ、
「今日から抱っこをやめる」
「今日から一人で寝かせる」
ではなく、
安心して眠れる方法を、もう一つ増やしてみる。
たとえば、
寝る前の流れを少し決めてみる。
授乳のあとに短い絵本や歌を入れてみる。
寝床で手を添えてみる。
家族にも、寝る前の時間の一部を担当してもらう。
その子が受け入れられそうなところから試してみる。
それくらいからでもいいと思います。
睡眠は夜だけでつくられているわけではありません
睡眠の相談を受けるとき、私は夜のことだけではなく、昼間の過ごし方も見ています。
朝は何時頃起きているか。
昼寝はどのくらいしているか。
日中に人と関わる時間があるか。
床の上で身体を動かして遊べているか。
抱っこ紐やベビーカー、車で過ごす時間が長くなっていないか。
食事や授乳はどうか。
「昼間たくさん動けば寝る」という単純な話ではありません。
睡眠だけを切り取るのではなく、
赤ちゃんの一日の暮らしの中で眠りを見る
ということです。
寝かしつけと、安全に眠る環境は別に考える
最後に、ここは分けて考えておきたいところです。
抱っこや授乳など、眠るまでの方法にはいろいろあります。
でも、眠ったあとの安全な睡眠環境については、別に考える必要があります。
1歳までの赤ちゃんは、仰向けで、硬く平らな寝床に寝かせ、柔らかい寝具や枕、ぬいぐるみなどを睡眠スペースに置かないことが推奨されています。
「その子が安心する寝かしつけ」と、
「安全に眠れる場所」は、
どちらも大切ですが、同じ話ではありません。
抱っこや授乳中に親御さん自身がうとうとしてしまい、窒息や転落につながる事故も多いため、眠気が来たら安全な場所に寝かせる意識も大切です。
「自分で眠れる?」より、「安心して眠れる方法は増えている?」
赤ちゃんは、生まれたときから大人と同じように眠れるわけではありません。
最初はたくさん大人の助けを借りながら眠ります。
抱っこ。
おっぱい。
触れてもらうこと。
声。
揺れ。
そして成長する中で、
「これでも眠れた」
という方法が少しずつ増えていく。
私は、
「一人で眠れるようになったかな」
だけではなく、
「この子が安心して眠れる方法が、少しずつ増えているかな」
と見てみたいと思っています。
抱っこを悪いものにしなくていい。
おっぱいを急いでやめなくてもいい。
でも、今の眠り方で親子がつらくなっているなら、少し違う方法も一緒に探してみる。
赤ちゃんの睡眠は、
「正しい寝かせ方を覚えること」ではなく、
その子なりに、安心して眠る方法を増やしていく過程なのかもしれません。


