
お風呂あがりのこと。
4か月の赤ちゃんがバスタオルに包まれながら、ママの顔を見て、
「あーあー」
と楽しそうにおしゃべりしていました。
ママも赤ちゃんの声に応えるように話しかけています。まるで二人で会話をしているような、かわいい時間でした。
ところが突然、
しーん……。
さっきまで声を出していた赤ちゃんが、急に黙りました。
「あれ?どうしたのかな?」
そう思って見ていたら、次の瞬間、
ピューッ。
おしっこでした。
思わず笑ってしまったのですが、その姿を見ながら、私はふと思いました。
「この子、おしっこが出る前に、身体の中で何か感じていたのかな?」
本当のところは分かりません。
でも、この何気ない一瞬が、私にはとてもおもしろく感じられたのです。
赤ちゃんは自分の身体の中を感じている?
赤ちゃんの発達というと、
顔を見る。
声を聞く。
触れられる。
おもちゃに手を伸ばす。
このような「外の世界との出会い」に目が向きやすいかもしれません。
でも、私たちが受け取っているのは、身体の外から入ってくる情報だけではありません。
お腹が空いてきた。
お腹がいっぱいになった。
呼吸が速くなった。
心臓がドキドキしている。
眠くなってきた。
お腹が動いている。
膀胱に尿がたまってきた。
身体の内側からも、さまざまな情報が届いています。
こうした身体内部の状態を感じ取る働きを表す言葉の一つが、「内受容感覚(ないじゅようかんかく)」です。
「身体が反応すること」と「分かること」は同じではありません
では、今回の赤ちゃんは、
「もうすぐおしっこが出る」
と分かって、黙ったのでしょうか。
そこまでは分かりません。
身体の中では、膀胱に尿がたまり、膀胱の壁が伸び、神経を通してその情報が伝えられます。そして、神経系の働きによって排尿が起こります。
ただし、身体が信号を受け取り反応することと、
「これはおしっこが出そうな感覚だ」
と意識的に理解することは、同じではありません。
赤ちゃんの身体には、生命を保つためのさまざまな調整機能があります。一方で、自分の身体の感覚に気づき、それを区別し、言葉で意味づける力は、成長や経験とともに育っていきます。
そのため、今回の赤ちゃんについては、
「排尿の前後に起こった身体の変化を、何らかの形で感じていたのかもしれない」
くらいに考えておくのがよいのだと思います。
乳児の内受容感覚について、どこまで分かっている?
乳児の内受容感覚については、少しずつ研究が進んでいます。
乳児が自分の心拍や呼吸と同期する刺激と、同期しない刺激を見分けている可能性を示した研究があります。これは、まだ言葉を持たない乳児も、身体内部の信号に何らかの形で反応している可能性を示すものです。
ただし、乳児期の内受容感覚に関する研究はまだ多くありません。
特に、
- 赤ちゃんが排尿前にどのような感覚を持っているのか
- その感覚にどの程度気づいているのか
- 黙る、動きを止めるといった行動と排尿感覚が直接関係しているのか
というところまでは、現在の研究からは判断できません。
今回の「しーん……」という姿も、排尿前の身体感覚だった可能性はありますが、偶然だった可能性もあります。
一つの行動から、赤ちゃんの感じていることを決めつけないことが大切です。
身体の中の変化が、赤ちゃんの姿に現れることもある
赤ちゃんは、自分の身体の状態を言葉で説明できません。
そのため、身体の中で何かが変化したときに、
- 急に動きが止まる
- 声を出さなくなる
- 表情が変わる
- 身体に力が入る
- 視線が変わる
- 泣く
といった姿として現れることがあります。
もちろん、これらすべてが内受容感覚によるものではありません。
見えているものや聞こえている音、人とのやりとり、姿勢、眠気、疲れ、暑さや寒さなど、赤ちゃんの行動にはさまざまな要素が関係しています。
でも、
「目に見える行動だけでなく、身体の中でも何かが起きているのかもしれない」
という視点を持つと、赤ちゃんの見え方が少し変わります。
理由を当てるより、赤ちゃんの様子を一緒に見る
赤ちゃんが突然泣いたり、静かになったり、いつもと違う表情をしたりすると、私たちは「どうして?」と理由を知りたくなります。
そんなときは、
「眠くなってきたのかな」
「お腹が動いているのかな」
「少し暑いのかな」
「何か気になる感じがしたのかな」
と、考えてみることができます。
でも、当てる必要はありません。
「きっとこれだ」と決めつけず、赤ちゃんの表情や呼吸、身体の力の入り方、周囲の状況などを見ながら、また考えてみる。
その繰り返しでよいのだと思います。
ただし、顔色や呼吸がおかしい、反応が乏しい、発熱や嘔吐がある、排尿時に強く泣く、尿の回数や量がいつもと大きく違うなど、普段と異なる様子がある場合は、内受容感覚の現れと考えるのではなく、医療機関への相談も必要です。
大人とのやりとりの中で身体の状態が整えられる
赤ちゃんは、自分だけで身体の状態を整えているわけではありません。
お腹が空いたときに授乳してもらう。
眠そうなときに抱いてもらう。
暑そうなときに衣服や室温を整えてもらう。
泣いたときに誰かがそばに来てくれる。
赤ちゃんの身体は、このような大人とのやりとりにも支えられながら整えられていきます。
そして大人は、
「おしっこが出たね」
「お腹いっぱいになったかな」
「眠くなってきたのかな」
と、赤ちゃんの身体に起きていそうなことに、そっと言葉を添えることもできます。
これは、大人が赤ちゃんの気持ちを言い当てるためではありません。
赤ちゃんの様子を見て、一緒に確かめようとする関わりです。
だから、「眠いね」と決めるよりも、
「眠くなってきたのかな?」
くらいでよいのだと思います。
支援者の方へ――行動の奥に「身体」を置いてみる
子育て支援の場では、目に見える行動に注目しがちです。
「よく泣く」
「機嫌が悪い」
「急に嫌がる」
「途中で動かなくなる」
そのような姿に出会ったとき、
「この子の身体の中では、今どんなことが起きているのだろう」
という視点を一つ加えてみる。
空腹、満腹、眠気、排泄、呼吸、体温、姿勢、疲れ。
行動だけを切り取るのではなく、身体を含めて、その子を丸ごと見てみる。
これは原因を当てるためではありません。
赤ちゃんを理解しようとする視点を、一つ増やすということです。
親御さんにも、
「もっと早く気づかないと」
ではなく、
「今、何を感じていたんでしょうね」
「少し一緒に見てみましょうか」
と伝えられたら、親御さんが自分を責めずに、赤ちゃんを見つめる時間につながるかもしれません。
分からないからこそ、見ていたくなる
あの日、ママと「あーあー」とおしゃべりしていた4か月の赤ちゃんが、突然黙りました。
そして少しして、ピューッとおしっこ。
どうして黙ったのか、本当の理由は分かりません。
でも私は、
「この子の身体の中で、今、何か起きていたのかな」
と思いました。
赤ちゃんを見ていると、こんな小さな「ん?」にたくさん出会います。
そのすべてに、はっきりした答えがあるわけではありません。
けれど、
「どうしてこんなことをするの?」
から、
「今、この子の身体では何が起きているんだろう?」
へ。
そんなふうに見方を少し変えると、赤ちゃんの動きや表情、声の変化が、これまでとは違って見えてくることがあります。
まだ言葉を持たない赤ちゃんの身体の中には、私たちには見えない世界が広がっています。
分からないからこそ、よく見ていたくなる。
赤ちゃんを「分かった」と決めつけるのではなく、分かろうとしながら、一緒に過ごしていく。
そんな時間も、赤ちゃんとの関わりのおもしろさなのだと思います。
参考文献
- Addabbo M, Milani L. Measuring interoception from infancy to childhood: A scoping review. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2025;173:106161.
- Tünte MR, et al. Respiratory and cardiac interoceptive sensitivity in the first two years of life. Developmental Cognitive Neuroscience.


