保育の現場や訪問支援、ベビーマッサージの教室などで、保護者の方から「離乳食を食べてくれない」「お粥をべーっと吐き出してしまう」という相談を受けることはありませんか?
「スプーンの進め方」や「レシピの工夫」をアドバイスしてもなかなかうまくいかないとき、私たちはどこに目を向けたらよいのでしょうか。
実は、赤ちゃんがごはんを上手に消化して受け入れるためには、お口の機能だけでなく、「心と脳のつながり」がとっても大切な役割を果たしています。
今回は、解剖生理学と乳幼児心理学の視点から、支援の引き出しがグッと広がる「離乳食と発達のヒミツ」をお話ししますね。

1. 「食べたい!」という心の動きが、消化のスイッチを入れる
離乳食(特に炭水化物)を消化するときに不可欠なのが、唾液に含まれる「アミラーゼ」という消化酵素です。
このアミラーゼの分泌は、単に「口に食べ物が入った刺激」だけで起こるわけではありません。
- 「なんだかいい匂いがするな」(嗅覚の刺激)
- 「大人が美味しそうに食べているな」(視覚によるモデリング)
- 「お腹がすいたな」(内受容感覚の気付き)
赤ちゃんがこのように五感で環境を捉え、「おいしそう!」「食べたい!」と心を動かしたとき、脳から自律神経を介して「これから食物を迎える準備をして!」と唾液腺に一斉に指令が飛びます。
これを解剖生理学では、目で見て匂いを嗅ぐことで分泌が起こる「頭相期」の反応と呼びます。つまり、「心のワクワク(心理面)が、消化器系の準備(生理面)のスイッチを押す」という緊密な連携が、赤ちゃんの体の中で起きているのです。
2. 不安や緊張環境が、アミラーゼの分泌をせき止めてしまう
逆に、支援の現場でよく見られるのが、「スケジュール通りに進めなきゃ」「残さず食べさせなきゃ」と、保護者の方が一生懸命になるあまり、食卓が緊張感に包まれてしまうケースです。
赤ちゃんがお腹がすいていない状態で無理にお口に入れられそうになったり、保護者の焦りを感じ取って「怖いな」「嫌だな」と心理的ストレスを感じたりすると、赤ちゃんの交感神経が優位になります。
すると、お口の中はカラカラに乾き、アミラーゼのスムーズな分泌は阻害されてしまいます。
アミラーゼによるでんぷんの分解(液化作用)が行われないと、お粥の粘り気がそのままお口に残り、赤ちゃんにとっては「飲み込みにくい不快な塊」になってしまいます。これが、赤ちゃんが「べーっ」と吐き出す原因の一つなのです。
「食べない」という行動の背景には、わがままや好き嫌いではなく、「まだ消化の生理的準備が整っていない」という赤ちゃんの体のサインが隠されています。
3. 私たち子育て支援者が、保護者へ伝えたいこと
離乳食期における「匂いを嗅ぐこと」や「大人の食事風景を見ること」は、単なる食事の形だけの練習ではありません。
★支援者が共有したい「食べる力」の3ステップ
- 快の刺激:「いい匂いだね」「おいしそうだね」という五感へのアプローチ
- 心の安心:「ママが笑ってる、ここは安全だ」という愛着関係の確認
- 体の機能: 脳からの指令でアミラーゼが分泌され、受け入れ態勢が整う
「食べる力」を育むということは、栄養を口に流し込むことではなく、この3つのサイクルを心地よく回してあげることです。 赤ちゃんの「食べたい心(心理)」と「体の仕組み(生理)」は、大きく関係しているのです。これは3歳までに育つ腸内細菌とも関係します。腸脳相関のことも聞いたことはあるかもしれませんが、この時期からの食べることの積み重ねが脳を育む腸内細菌とも関係してくるのです。
日々、目の前の親子に寄り添う支援者のみなさん。 離乳食の進み方に悩むママたちに出会ったら、まずは「ママ、毎日本当によく頑張っていますね」とその努力を丸ごと肯定してあげてください。
その上で、レシピの正しさよりも、「まずはお出汁の匂いを一緒にクンクン嗅いで、親子で『いい匂いだね』って笑い合ってみませんか?」と提案してみてほしいのです。
一見、遠回りに思える「五感の心地よさ」や「安心できる環境づくり」こそが、赤ちゃんの脳を刺激し、アミラーゼをスムーズに出すための一番の近道になります。
赤ちゃんの体と心のメカニズムを深く理解すると、ママたちの肩の荷をそっと下ろしてあげられる、より優しい支援ができるようになります。 子どもたちの健やかな発達を、確かな専門性とあたたかい眼差しで、一緒に支えていきましょうね。
※離乳食の進み方には個人差があり、お口の形や発達段階による場合もあります。不安が強い場合は、かかりつけの小児科や歯科医師、管理栄養士などの専門機関への受診もご案内ください


