「離乳食をあまり食べてくれません」

「スプーンを近づけても、口を開けてくれません」

「食べ物を触ってばかりで、なかなか食事が進みません」

離乳食を始めると、

「今日は何口食べたかな」

「月齢の目安量まで食べられたかな」

と、どうしても口に入った量が気になります。

一生懸命用意したものを食べてもらえないと、心配になったり、離乳食を作ることがつらくなったりすることもありますよね。

けれど、赤ちゃんの「食べる」は、食べ物が口に入った瞬間だけに起きているのではありません。

食べ物を見る。

においを感じる。

手で触って確かめる。

家族が食べる姿をじっと見る。

よく遊び、おなかがすく。

安心できる人と一緒に食卓を囲む。

こうした一つひとつの経験も、赤ちゃんの「食べる力」を育てています。

食べる準備は、口に入る前から始まっています

赤ちゃんに食べることを教えるというと、スプーンを使うことや、食べ物を口へ運ぶことを思い浮かべるかもしれません。

けれど、赤ちゃんにとって「食べる」は、口に入れる前から始まっています。

食べ物をじっと見る。

においを感じる。

家族が食べている姿を見る。

「これは何だろう」と手を伸ばす。

私たちの身体では、食べ物を見たり、においを感じたりすることで、実際に口へ入る前から、唾液や消化液の分泌など、食事を受け入れるための反応が始まることがあります。

ただし、食べ物に興味をもてば、必ずすぐに食べられるようになるということではありません。

赤ちゃんは、見る、におう、触る、家族の様子を確かめるといった経験を重ねながら、少しずつ食べ物について学んでいきます。

離乳食を食べないとき、口だけを見ていませんか?

赤ちゃんが口を開けないと、

「好き嫌いなのかな」

「おなかがすいていないのかな」

「もっとおいしく作らないといけないのかな」

と考えたくなります。

けれど、赤ちゃんが食べない背景は一つではありません。

例えば、

・まだ食べ物をよく見ていたい
・においや食感に慣れていない
・舌や顎の動きが発達の途中にある
・一口の量が多い
・食べ物の硬さや粘りが合っていない
・姿勢が安定していない
・眠い、疲れている
・授乳の直後で、おなかがすいていない
・空腹が強くなりすぎて落ち着けない
・周囲の音や動きが気になっている
・次々に運ばれるスプーンに気持ちが追いつかない
・自分から関わる前に、食べ物が口へ入ってくることに戸惑っている

など、さまざまな可能性があります。

そんなときは、

「どうしたら口を開けてくれるかな」

だけでなく、

「今、この子は食べ物とどのように関わっているかな」

という視点で見てみましょう。

口に入った量だけを見ていると気づきにくかった、赤ちゃんの興味や小さな変化が見えてくるかもしれません。

離乳食開始前から「食べる」は育っています

離乳食を始める前の赤ちゃんも、食べるための経験を少しずつ重ねています。

家族の食事をじっと見る。

大人が食べ物を口へ運ぶ動きを見る。

食べ物のにおいや、食器の音を感じる。

手やおもちゃを口へ運ぶ。

赤ちゃんは手や口を使いながら、

「どんな形をしているのかな」

「硬いのかな、やわらかいのかな」

「口に触れると、どんな感じがするのかな」

と、物の性質を確かめています。

これは食べ物を噛んだり飲み込んだりすることと同じではありませんが、手や口で物を確かめる大切な感覚経験です。

赤ちゃんの「食べる」は、初めて離乳食を口に入れた日に、突然始まるものではないのです。

見る・におう・触ることも「食べる経験」です

大人にとって見慣れたお粥や野菜も、赤ちゃんにとっては初めて出会うものばかりです。

赤ちゃんは、味だけを確かめているのではありません。

・どんな色や形をしているのか
・どんなにおいがするのか
・温かいのか、冷たいのか
・硬いのか、やわらかいのか
・握るとどうなるのか
・つぶすと、どのように変わるのか
・唇や舌に触れると、どんな感じがするのか

このように、目、鼻、手、口などから入る情報を重ねながら、「これはどんなものなのか」を学んでいきます。

その日は見るだけだった。

次の日は指で触れた。

別の日には、少しなめてみた。

このような小さな経験の積み重ねが、食べ物への慣れや受け入れにつながっていきます。

一度出したものを食べなかったからといって、すぐに「嫌いな食べ物」と決まるわけではありません。

今はまだ、その食べ物を知っている途中なのかもしれません。

食べ物に触るのは、遊んでいるだけ?

離乳食を握る。

つぶす。

指で広げる。

手についたものをじっと見る。

床へ落とす。

大人から見ると、

「食べ物で遊んでいる」

「きちんと食べてほしい」

と思うこともあるでしょう。

けれど、赤ちゃんは触ることで、

「力を入れると、つぶれる」

「手にくっつく」

「落とすと音がする」

「手で触った感じと、口に入れた感じは違う」

という食べ物の性質を学んでいます。

赤ちゃんにとって、触ることは食べ物を知るための探索の一つです。

すぐにスプーンで口へ運ぶだけでなく、安全に配慮しながら、赤ちゃんが食べ物を見たり触ったりする時間を少し待ってみてもよいでしょう。

ただし、すべての行動が食べ物への探索とは限りません。

最初は食べ物を見たり触ったりしていたのに、次第に、

・顔を背ける
・身体を反らす
・口を閉じる
・機嫌が悪くなる
・繰り返し食べ物を投げる

といった様子が見られたら、疲れた、満腹になった、もう食事を終えたいというサインかもしれません。

一つの行動だけで判断せず、赤ちゃんの表情や身体の向きも合わせて見てみましょう。

食べ物を「べーっ」と出すのは、嫌いだから?

赤ちゃんが食べ物を口から出すと、

「この食べ物が嫌いなのかな」

「せっかく作ったのに」

と思うこともありますよね。

けれど、食べ物を出す背景にも、いろいろな可能性があります。

・初めての味や食感に驚いた
・舌で食べ物を動かすことがまだ難しい
・食べ物の硬さや粘りが扱いにくい
・一口の量が多かった
・口へ入れるタイミングが合わなかった
・満腹だった
・眠気や疲れがあった
・まだ口へ入れたくなかった

口へ入ったものを舌や唇で確かめた結果、まだうまく扱えずに出てきた可能性もあります。

赤ちゃんの食べる機能は、舌や唇、顎、喉など、さまざまな部分を協調させながら少しずつ育っていきます。

一回の反応だけで好き嫌いと判断せず、食べ物の形や一口量、姿勢、食事の時間、そのときの赤ちゃんの状態を振り返ってみましょう。

家族が食べる姿も、赤ちゃんにとっての学びです

赤ちゃんは、食べ物だけを見ているのではありません。

大人が食べ物を手に取る。

口へ運ぶ。

噛む。

飲み込む。

表情を変える。

「おいしいね」と話す。

そんな家族の姿も見ています。

以前、9〜11か月頃の赤ちゃんの離乳食について、相談を受けたことがありました。

親御さんは、

「食事の時間には、赤ちゃんとしっかり向き合って食べさせることが大切」

と考え、赤ちゃんのための離乳食の時間をつくっていました。

けれど、赤ちゃんは食べ物にあまり興味を示しません。スプーンを口元へ運んでも、食べ物を口へ入れることを嫌がる様子がありました。

そこで、赤ちゃんだけの食事時間とは別に、家族が食べる時間にも一緒に過ごしてみることにしました。

すると、少しずつ赤ちゃんの様子に変化が見られました。

親が食べ物を口へ運ぶ姿を、じーっと見つめるようになったのです。

親の口元へ指を伸ばそうとしたり、食べ物へ手を出そうとしたりする姿も現れました。

その後、食べ物を口へ入れることへの抵抗も、少しずつやわらいでいきました。

もちろん、「家族と食卓を囲めば、必ず食べられるようになる」ということではありません。

けれど、この赤ちゃんには、食べさせてもらう前に、

「みんなは何をしているんだろう」

「口に入れているものは何だろう」

「私も触ってみたい」

と、自分から食べることに興味を向ける時間が必要だったのかもしれません。

そして親御さんも、「食べさせなければ」と頑張るだけではなく、赤ちゃんと一緒に食事の時間を楽しめるようになりました。

毎回、家族全員で食べなくても大丈夫です

家族と一緒に食べることが大切と聞くと、

「生活時間が合わない」

「家族全員で食卓を囲めない」

「赤ちゃんと二人きりの食事が多い」

と心配になる方もいるかもしれません。

毎回、家族全員で食卓を囲む必要はありません。

一日のどこかで少しだけでも、赤ちゃんが大人の食べる姿を見たり、同じ食卓の雰囲気を感じたりする時間があればよいのです。

「いいにおいだね」

「やわらかいね」

「お母さんも食べてみよう」

そんなふうに、同じ食べ物へ一緒に注意を向けることも、赤ちゃんにとっての食経験になります。

抱っこしながら大人が食事をする場合は、熱い料理や飲み物、食器、箸などへの手伸ばしに注意してください。

抱っこだけでなく、発達に合った安全な椅子などから、家族が食べる様子を見られるようにする方法もあります。

食事の前後にある暮らしも、「食べる」につながっています

離乳食を食べないときは、食事の内容だけでなく、その前後の生活も振り返ってみましょう。

・食事の直前に授乳していなかったか
・眠くなる時間と重なっていなかったか
・遊び疲れていなかったか
・空腹になるまで待ちすぎていなかったか
・起きている時間に身体を動かして遊べたか
・赤ちゃんが落ち着いて食卓へ向かえる時間だったか

睡眠、授乳、遊び、空腹、食事は、それぞれが別々にあるのではなく、一日の暮らしの中でつながっています。

ただし、生活リズムを整えれば、必ず食べるようになるということではありません。

また、赤ちゃんの授乳・睡眠・食事のリズムには個人差があります。

決めた時刻に何とか食べさせようとするよりも、

「今、この子は食べることに向かえる状態かな?」

と考えてみることが大切です。

赤ちゃんの「食べる」を支える3つの視点

赤ちゃんの食べる力を考えるときは、次の3つの視点をもつと、赤ちゃんの姿を捉えやすくなります。

1.感覚

見る、におう、触る、味わうなど、五感を使って食べ物を知っていきます。

2.関係

安心できる人と一緒に過ごし、自分の受け入れや拒否のサインを受け止めてもらいながら、食べ物との関係を築いていきます。

3.身体

姿勢や手の動き、舌や顎の動き、目覚めの状態、空腹や満腹などが、食べることに関係します。

この3つは、決まった順番で働くわけではありません。

感覚、親子の関係、身体の発達や状態が互いに影響し合いながら、赤ちゃんの食経験を支えています。

家庭でできる6つの関わり

1.離乳食開始前から食卓を一緒に囲む

抱っこや発達に合った安全な場所から、家族が食べる様子を見られる時間をつくります。

2.すぐに口へ運ばず、まず見る時間を待つ

赤ちゃんが食べ物へ気づき、じっと見て、興味を向ける時間も大切にします。

3.安全に触れられる食べ物を用意する

赤ちゃんの発達に合った形ややわらかさにして、触る、握る、つぶすといった経験も見守ります。

4.赤ちゃんの反応を待つ

口を開ける、身体を前へ動かす、食べ物へ手を伸ばすなどの反応を見ながら進めます。

顔を背けたり、口を閉じたりしたときは、いったん止めてみましょう。

5.食べた量以外の変化も見つける

「今日は触れた」

「昨日より長く見ていた」

「自分から手を伸ばした」

ということも、食べることへ向かう変化です。

6.睡眠・授乳・遊びとのつながりを見る

食べなかった一回だけを評価せず、その日の体調や生活の流れも一緒に振り返ります。

食べた量だけでは見えない育ちがあります

今日は、ほとんど食べなかった。

けれど、にんじんをじっと見ていた。

指で触って、つぶして、手についたものを確かめていた。

お母さんが食べる姿を見ながら、自分の口を動かしていた。

それも、赤ちゃんが「食べる」を学んでいる時間です。

食べることは、栄養を口へ入れることだけではありません。

食べ物を知ること。

自分から関わってみること。

安心できる人と経験を分かち合うこと。

おなかがすき、「食べてみたい」と心が動くこと。

口や身体を少しずつ使えるようになること。

赤ちゃんの「食べる」は、口だけで始まっているのではなく、身体、感覚、心、親子の関係、毎日の暮らしの中で少しずつ育っています。

「何口食べたか」と一緒に、

「今日は、どんなふうに食べ物と出会ったかな」

ということも見つけてみてくださいね。

※離乳食の進み方には個人差があります。むせや咳き込みを繰り返す、食事に長い時間がかかる、食べられる形態や種類が極端に限られる、体重増加が気になるなどの場合は、かかりつけの小児科医、歯科医師、管理栄養士、言語聴覚士などへご相談ください。

参考資料

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」

WHO:Complementary feeding

Children’s acceptance of new foods at weaning: Role of practices of weaning and of food sensory properties

How Infants and Young Children Learn About Food

Caregiver feeding practices and child weight outcomes

Development of eating skills in infants and toddlers from a neuropediatric perspective

Biological and Experiential Factors That Impact the Acceptance of Complementary Foods

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